• 7月 27, 2026

チック、トゥレット症候群と漢方

最近、テレビやいろいろなサイトでも紹介されることも多くなっており、知名度が上がってきている疾患です。具体的な症状としては、まばたきや首振り、咳払いなどの症状から、周りの注目を集めてしまうような、 「うん」、「アッ」などの突然の発声、強い咳払い、鼻鳴らしなどが本人の意思とは関係なく出現することがあります。チック、トゥレット症候群と呼ばれますが、一般的にはあまり聞き馴染みはないかもしれません。これは、自分自身ではなかなか止められない 「反復的に、ある運動や発声が突然出てしまう」 疾患です。静かな場所や、ふさわしくない場所で症状が出ることがあり、公共の場では周囲にいる方がびっくりしてしまうことがあります。

症状の多くは小児期の5歳から7歳くらいに始まり、ピークは8歳~12歳くらいと言われています。成長につれて自然に治癒することもありますが、大人になっても続いてしまうこともあります。症状は様々で、声が出てしまう音声チックと、体の動きが出てしまう運動チックに分けられます。複数の運動チックと1つ以上の音声チックが1年以上続く状態になると、トゥレット症候群と診断されます。

詳しくは専門のサイトがありますので、こちらの方がよく整理されていて、わかりやすいと思います。より詳細を知りたい方は御参照ください。

日本トゥレット協会の公式Webサイト

厚生労働省 発達障害情報ポータルサイト、トゥレット症を含むチック症

出現する症状は様々で、例えば「まばたき」などの、それほど目立たない症状であればまだよいのですが、周囲の耳目を集めてしまうような、突然大きな声が出てしまうような症状が続くと、やはり日常生活に支障が出てしまうことがあります。また、発症時は病気だとは思われずに、わざとやっている、ふざけているだけだと思われてしまうこともあります。自分では簡単に止めることはできないので、生徒、学生さんの場合は授業の妨げになったり、いい加減にしろ!と強く叱責を受けてしまうこともあります。周りから変にに注目されてしまい、最悪いじめの対象になってしまったりして、つらい思いをすることも多いようです。

この病気の原因は?

まだ、はっきりとした原因はわかっていませんが、遺伝もある程度関係していることと、脳内で情報を伝達する物質(ドーパミンなど)の異常が指摘されています。ちょっと難しい話になってしまいますが、脳には「必要な動きを出し、不要な動きを抑えるブレーキ」のような神経回路があります。この回路(CSTC回路)の働きが少し乱れることで、チックが起こるのではないかと考えられています。

また、環境要因も関連しており、疲れ、睡眠不足、緊張、精神的ストレスなどが悪化要因になります。逆に、何かに夢中になって集中しているとき(ピアノ、 絵画、将棋、野球、ゲームなど)や、リラックスしているときは症状が軽減されることもあります。特にお子さんの場合は、症状を強く注意したりすると、より気になってしまい、さらにストレスになってしまうこともあり、注意すればするほど強く症状が出てしまうことがあります。逆にあえて症状には触れずに、ほかの事に意識を向けさせる方が症状が軽減することがあります。

また合併することが多い疾患として、注意欠如・多動症(ADHD)や、脅迫症、不安神経症、学習症などがあり、関連性が示唆されています。

チック、トゥレット症候群について、大まかな説明をしてまいりましたが、疾患の性質上、即座に致命的な(命に関わるような)症状ではないため、とりあえず経過観察となる場合も多いののが現状です。しかしながら前述のように、ご本人としてはかなり苦しめられることも多く、安直に経過観察で放置することはおすすめできません。

治療はどうするの?

では具体的にどのような治療を行ってゆくのでしょうか? 軽症の場合は、すぐに薬物療法などはせずに経過観察となることも多くなります。ただ、経過観察と言っても何もしないわけではなく、生活習慣のなかで、ストレス軽減や、規則正しい生活などを心がけてもらいます。また環境調整として、学校や友人と疾患の情報を共有して理解、配慮をお願いしていただくこともあります。現在は「包括的行動介入(CBIT)」という行動療法も推奨されており、前触れ(前駆症状)を感じたときに別の動きを行う訓練(拮抗反応訓練)などを組み合わせます。ムズムズやモヤモヤなどの前触れの症状(前駆症状)が起きるときに、起きてしまう運動(症状)の反対の運動(拮抗運動)を意識することで症状の発現を抑える訓練を行うこともあります。例えば目をつぶってしまう症状の時は逆に目を開けるように意識するような行動です。

それでもなかなか治まらない、生活に支障が出るような場合は薬物療法として、ドーパミンに関連する(脳内で過剰になっているドーパミンの働きを調整する薬である)アリピプラゾールやリスペリドンなどの内服を行うことがあります。しかし、脳内の神経伝達物質に働きかけて気分や精神状態を安定させる薬であるため、使用には注意が必要です。

漢方も使うの?

漢方の治療について書く前に、ちょっと別の疾患のお話をさせてください。疲れなどで出現することが多い 「眼瞼痙攣」という病態があります。チックなどとは少し違うのですが、中高年の女性に多く、まぶたがピクピクしたり、まばたきが増えたり、目が開けにくくなったりする病態です。厳密には同じ病気ではありません。ただ、眼瞼痙攣も疲れやストレス、寝不足が関連するといわれており、大きな枠組みで考えれば、眼瞼痙攣、チック、トゥレット症候群は、いずれも「自分の意志とは関係なく筋肉が動く不随意運動」の症状です。病態的にも比較的に似ているところがあり、大脳基底核を中心とした脳の神経回路(特にドーパミンなどの神経伝達物質のバランス異常)の機能障害が深く関わっていると考えられています。

この眼瞼痙攣に使用される漢方で 「抑肝散」 という薬があります。漢方を処方する際の基本は、体質をよく見て、体に合った漢方を処方するのが理想なのですが、いくつかの疾患は「病名だけで処方」して奏功するものがあります。例えば、こむら返りに芍薬甘草湯、低気圧頭痛に五苓散、そして、この眼瞼痙攣に抑肝散です。もちろん、比較的病名処方が成立しやすい疾患という事であり、ほかにも処方がありますし、胃腸に障ることもあり体質を考えて変更することがありますが、とりあえずの処方としてはとても重宝します。

そして、この抑肝散、チックやトゥレット症候群にも症例報告や小規模研究では有効例が報告されています。眼瞼痙攣とチックは違う疾患ではあるものの、共通点も持っております。脳内の異常な神経興奮を調整するという意味では、西洋医学の薬とともに、漢方の効果も十分期待できます。

チック、トゥレット症候群に使用される漢方薬

では具体的にいくつかの漢方を紹介してみます。とりあえず抑肝散!でもよいのですが、ほかにも候補となるものがあるので、2の手、3の手で使用するものも紹介してみます。

抑肝散(加陳皮半夏)

別の記事でも頻出の漢方です。怒りやストレスに効く漢方として有名ではありますが、より詳しくお話すれば、脳内の異常な神経興奮を抑える薬とも言えます。胃腸が弱い方は胃に障ることがありますので、陳皮と半夏を追加して胃腸への影響を抑えます。甘草という生薬を含み血中のカリウム値が下がることがあります。服用する際は採血で数値をチェックしてゆくと安心です。

柴胡加竜骨牡蠣湯

不安や、恐怖感、焦燥感が強いときに使用する薬です。症状や周りの人に対する不安症状、緊張状態に効果が期待できます。冷やす力があり、便が緩くなることがあるので、冷え性、冷えが強い方、下痢をしやすい方は桂枝加竜骨牡蛎湯を使用することもあります。

甘麦大棗湯

飲みやすい甘めの漢方です。お子さんでも飲みやすいので、ほかの薬が飲み難いときには単独で使用することもありますし、他剤との併用もします。うつ傾向がみられるときにも処方される薬です。甘草(リコリス)、小麦、ナツメというほとんど食品で構成される漢方ですが、不思議と効く方には著効します。

釣藤散

釣藤鈎と呼ばれる生薬を含む漢方です。血圧の高めの方で、頭痛のある方、体力がやや落ちている方、痩せ気味の方に使用されますが、頭部の神経の高ぶりやのぼせを鎮める働きを持つといわれます。転じてチックのような症状、特に頭部の症状には使用して効果がみられることがあります。

また、これら以外にも、チックやトゥレット症候群に使用される漢方として中国で使用されるものもいくつかあります。中国ではチック・トゥレット症候群に対する漢方治療の研究が比較的盛んで、数百例規模の臨床試験も報告されています。ただし日本とは使用される処方が根本的に異なることも多く、そのまま日本に当てはめることはできません。寧動顆粒、祛風止動方といった処方があるようですが、これらは日本で保険で使用することはできず、自費による治療として、似た処方を煎じ薬として処方することがあります。保険が効かず、自費による治療になるため、治療費が高額になりがちです。

今回紹介した漢方には、いわゆるチックやトゥレット症候群に対する保険適応はありませんが、体質や病状に合わせて処方される際には保険が適応されることもあります。チック・トゥレット症候群は「気のせい」でも「性格」でもありません。適切な環境調整や薬物療法、行動療法、そして体質に合わせた漢方治療を組み合わせることで、日常生活が楽になる方も少なくありません。一人で悩まず、まずは相談していただければと思います。お悩みの症状がありましたら、お気軽にご相談ください。

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