• 7月 13, 2026
  • 7月 17, 2026

掌蹠膿疱症と漢方

今回は皮膚科の疾患について少し書いてみたいと思います。タイトルにもある「掌蹠膿疱症」(しょうせきのうほうしょう)という疾患は、例えばアトピー性皮膚炎や、蕁麻疹などといった代表的な皮膚科の疾患とは言いにくい病名です。しかし、一般的な西洋医学的治療が奏功しない場合に、漢方が効果を発揮するケースもしばしば見られる疾患の一つです。西洋医学が苦手な、いわゆる 「体質」 などの悪化要素に対しても東洋医学的アプローチができるため、今回、こちらの記事で、できるだけわかりやすく紹介してみます。

掌蹠膿疱症とは?

「掌蹠膿疱症」という疾患は、手のひらや、足の裏に小さな水ぶくれや膿をもった発疹(膿疱)が何度も繰り返しできてしまい、皮膚の皮がむけたり、ひび割れて出血したりする疾患です。関節痛などを合併することもあり、多くは慢性に経過します。ステロイド外用薬などの一般的な治療で改善する方も多いのですが、なかなか治らず、長期間にわたり症状に苦しめられる方も多くいらっしゃいます。有病率は0.1%と言われており、簡単に申し上げれば1000人に一人くらいが発症してしまうといわれております。一見少ないようですが、世界的に見て日本は欧米に比べて発症が比較的多いといわれています。

原因についてはまだ完全にはよくわかっていませんが、専門的な研究によれば、近年IL-17やIL-23といった免疫の異常が病気の中心であることが分かってきました。また膿疱という病名のとおり、皮膚に膿が溜まりますが、特別な細菌が特定されているわけでもありませんし、もちろん特殊なウイルスも判明していません。

また原因も一つではなく、いくつか複数の原因が絡んでいるとも言われております。生活習慣での喫煙はかなり強く関係するといわれており、最も重要な悪化因子の一つです。。ほかにも歯の病気(歯周病、根尖病変など)や、ストレス、慢性的な炎症性疾患(例えば副鼻腔炎)なども深く関与するといわれています。

この疾患の一般的な治療は、いくつかの選択肢があります。しかしながら、研究はされているものの、「ひとつの特定の治療が目覚ましい効果を上げる」 ところまでは進んでいません。症状や重症度によって、さまざまな治療法がありますが、患者さんにより効き方が異なるため、複数の治療を組み合わせることも少なくありません。軽症の場合はステロイドの外用による治療です。しかし強めのステロイド軟こうを使用しても改善しないこともしばしばです。その際はビタミンD3を含む外用剤をしたり、保湿剤も併用します。症状が重い場合には、機材のある皮膚科さんでは紫外線治療などを用いることもあります。2026年時点の比較的新しい治療では、重症例にルミセフ(一般名:ブロダルマブ:IL-17RA阻害薬)、コセンティクス(一般名:セクキヌマブ:IL-17A阻害薬) ビンゼレックス(一般名:ビメキズマブ:IL-17A/F阻害薬) トレムフィア(一般名:グセルクマブ:IL-23阻害薬)スキリージ(一般名:リサンキズマブ:IL-23p19阻害薬)等という生物学的製剤も(一部適応外使用ながら)使用されることがあるようです。ただ、これらの生物学的製剤は、主に専門施設で、使用経験の多い専門医により慎重に導入される治療になります。これらは薬価が非常に高額なため、高額療養費制度などの医療費補助制度の利用が一般的です。

外用だけではなく、内服薬としてビタミンA誘導体、ビタミンB類、免疫抑制剤、抗生剤、抗炎症剤なども用いられます。近年は腸内環境を整える治療も見直されております。つまり、「いろいろ関係している」ことはわかっているのですが、決め手になるキーポイントについては、まだまだ研究が進んでいる状況です。

掌蹠膿疱症に漢方は効果があるの?

正直を申し上げると、漢方による治療が、「これで治ります!」 という決め手になるかというと・・、まだ確立されたエビデンスは少ないと言わざるを得ません。しかしながら、「炎症を抑える」、「腸内環境を整える」、「ストレスを軽減する」という事に関しては西洋医学以上に造詣が深い医療体系です。それ以上に、東洋医学的には気血水、体質に合った治療という考え方で、一定の効果がみられる場合も多くあります。実際、これまで「いろいろ治療を受けたけれど、なかなか良くならない。」そんな患者さんを外来で何人も診てきました。角度を変えて病態を観察し、西洋医学に漢方の治療を追加することで、もちろんすべての患者さんではありませんが、予想以上の効果を上げることも多くあります。

また中国などでは漢方薬の分子生物学的な研究も進んでおり、実験レベルで炎症を調節する可能性を示した研究は報告されています。ただし、前述したように掌蹠膿疱症そのものに対して、例えば「漢方薬がIL-17を抑えて症状を軽減した」と証明できた臨床研究はまだ十分ではないようです。

しかし、漢方治療は、炎症だけを見るのではなく、「体質」「皮膚の状態」「冷え」「瘀血」「ストレス」なども含めて総合的に体質、体調改善を目指す治療として、多角的な見地から治療を行ってゆきます。いうなれば西洋医学にはない視点でこの疾患と対峙することができます。そのような漢方独自の視点で、掌蹠膿疱症によく使用される漢方を以下に候補を挙げてみました。

よく用いられる漢方

● 炎症が強いタイプ 発赤、熱感、かゆみの改善

まずよく使用される代表的な漢方薬です。

 温清飲

  皮膚科の漢方でよく使われる漢方薬ですが、この掌蹠膿疱症でも、最初に頭に浮かぶ漢方薬のひとつです。皮膚のかゆみや炎症を抑えて、皮膚の回復を助けてくれる力を持っています。下記の黄連解毒湯に四物湯という薬を合わせた方剤です。黄連解毒湯は下記に説明がありますが、四物湯は体内の血流を改善し、例えば子宮や腸管などの内臓はもちろん、皮膚、指先などへの血流も改善する力を持っています。実際、更年期障害などにも用いられる方剤です。

 黄連解毒湯

 漢方の中で炎症とかゆみを抑えてくれる処方ですが、のぼせやほてり、イライラなどにも応用されます。消化管の炎症も抑えてくれたり、出血を止める力もあるので、上記の温清飲にさらに上乗せする形で使用することがあります。大袈裟ですが、実証(体質)でかゆみと言ったら、まず黄連解毒湯!と言ってもいいくらいです。

 竜胆瀉肝湯

 やはり炎症を抑える方剤になります。比較的体力のある方向けの漢方ですが、皮膚の湿潤傾向が強く、熱を持つ病態、体質に使用されます。熱感が強く、ジュクジュクするタイプの皮膚炎を乾かす方に働いて改善を図ります。また、皮膚病変だけでなく膀胱炎などに使用されることもあります。

 三物オウゴン湯

 こちらの漢方も熱をとる漢方になりますが、どちらかというと肌を潤す力を持っています。特に手足がほてって、かゆみ、乾燥する肌荒れ、主婦湿疹、もちろん今回の掌蹠膿疱症などにも用いられます。慢性化して乾燥や熱感を伴う皮膚症状によく用いられます。

● 瘀血が強いタイプ 血液循環の改善

 いわゆる瘀血と言われる血の巡りの悪さを改善する薬です。掌蹠膿疱症はこの血液循環の悪さが一つの悪化要因とも考えられており、これを改善することで、相乗的にほかの薬の効果向上を期待できます。ただ、この瘀血という病態は便秘と深く関係しており、効果がある薬の多くが下剤の力を持つことが多くなります。このため、瘀血はあるけれどもよく下痢をする方は服用の際に便が緩め(下痢)になるなどの症状が懸念されるため、注意が必要になります。

 桂枝茯苓丸

 瘀血(血流の滞り)を改善する代表的な漢方薬です。掌蹠膿疱症においては皮膚の血流改善を目的に用いることがあります。比較的体力のある方に向きますが、便秘改善作用もあるため、体質によっては便が緩くなることがあります。

 通導散

 桂枝茯苓丸と同様に瘀血を改善しますが、こちらはさらに便秘を改善する力が強くなります。逆に言うと、服用により下痢をする可能性も高くなり、服用量の調節には配慮が必要です。気持ちの落ち込みを改善したり、高まった気を静める効果もありますので、イライラなどがある時にも効果を期待できます。

 桃核承気湯

 瘀血も強く、特に便秘症状がとても強い方の薬になります。普通の方が服用すると、かなりの確率で下痢をします。ただ、この薬が体に合う方は、服用後、もう二度と手放せない薬になる方もしばしば経験しています。

さらに補助的に用いられる漢方 (ご参考までに)

● 何らかの慢性疾患、アレルギー、慢性炎症を伴うタイプ (解毒症体質)

 荊芥連翹湯

 解毒症体質と言われる慢性炎症をもつ体質の方によく使用されます。代表的な疾患は副鼻腔炎、尋常性ざ瘡(ニキビ)、蕁麻疹などのアレルギー体質なども含まれます。掌蹠膿疱症も慢性炎症疾患の一つではありますので、補助的に使用することがあります。神経的に敏感でイライラして落ち着きがないなどの症状にも効果的と言われています。体質的には皮膚の新陳代謝が悪く、皮膚がカサついたり、日常的に炎症を繰り返して皮膚が全体的に浅黒くなるなどの特徴がみられることもあります。 

 防風通聖散

 よく肥満症の薬として紹介されることの多い本剤ですが、基本的には解毒剤にになります。毒を分解するというより、暴飲暴食などにより体内にこもった「熱」や「老廃物(毒素)」を汗・尿・便と一緒に体の外へ排出する漢方薬です。特に皮下脂肪や内臓脂肪のたまった方には良いとされていますが、下剤の力も強くなり、お通じが緩くなることが多い薬になります。

● 関節痛、神経痛を伴うタイプ

 疎経活血湯

 読んで字のごとくといいますか、血液のめぐりを改善する力を持っています。血の巡りとともに水分の代謝も改善し、神経痛や筋肉痛、関節痛などの慢性的な炎症も改善する力を持っています。湿気や寒さで増悪するような症状にも効果がみられ、転じて皮膚の血流低下症状にも効果が期待できます。

 麻杏よく甘湯

 こちらも余分な水分を取り除き、炎症を鎮める力を持っている漢方になります。ヨクイニンという生薬を含み、いぼの治療に用いられることもあります。上の疎経活血湯と同じように神経痛、関節痛などにも用いられますが、より急性期に用いられることが多い薬です。麻黄という生薬を含み、長期に服用すると胃腸障害を起こすことがありますので、比較的短期間の使用として、症状が悪化、持続するときは別の薬に変更することも検討します。

 

● ストレス、イライラを伴うタイプ

 抑肝散

 こちらの生薬は良くストレスに使用される漢方として有名です。胃腸の弱い方には陳皮と半夏を追加して抑肝散陳皮半夏として処方することがあります。柴胡という生薬を含み、ストレスに対する効果があります。ストレスにも色々なケースがあるのですが、手足のつらい病状に悩んでいるケース、ときに怒りやイライラのある状況によく処方されます。血液の循環を改善する当帰やセンキュウという生薬を含み、また水の代謝を促す蒼朮、茯苓という生薬を含むので、ほかの方剤と組み合わせることで皮膚症状への効果を助ける要素もあります。ストレスに用いられる漢方は、この他にも多くの種類があり、状態により使い分けます。より詳しい解説は過去記事の 「ストレスの漢方」 をご参照いただますと幸いです。

まとめ

以上、多くの方剤を紹介してしまいましたが、これらの漢方薬を使用する際には、単剤で効果が出ることもありますが、実際には複数を使用して初めて効果が出ることもしばしばです。その組み合わせを詳細に説明するのはなかなか難しく…、基本的には含まれる生薬や相性を考え、実際の各患者さんの病状と、経時的な症状の変化に合わせて加減し、また方剤の種類も変えてゆきます。漢方薬は「皮膚だけ」を診る薬ではありません。皮膚症状の背景にある体質や生活習慣にも目を向けることで、西洋医学だけでは改善しにくかった症状が和らぐこともあります。

繰り返しにはなりますが、掌蹠膿疱症は、現在のところ一つの薬、治療で解決できる病気ではありません。生活習慣の見直し、皮膚科での治療、必要に応じた歯科治療(根管治療)、そして体質、ストレスに応じた漢方治療。それぞれを組み合わせることで改善につながる方が少なくありません。つまり治療に時間がかかるケースも多く経験します。焦らず、一歩ずつご自身に合った治療を見つけていきましょう。何か気になる症状があればお気軽にご相談ください。

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