- 12月 6, 2024
- 12月 7, 2024
高血圧について
高血圧についての解説です。あまり詳しく解説を始めると、とんでもなく長くなってしまうので、概略の説明と、ほんの少しの裏話的なところをお話しできればと思います。
血圧高め、と言われている方は日本に約4000万人以上と推定されており、日本人のおよそ3人に1人が高血圧という事になります。また、年齢が上がるにつれて、血圧も高くなるといわれており、75歳以上になると、70%以上の方が、高血圧と言われております。
まず、よく聞くお話として、「健診で高血圧を指摘されて、すぐに内服薬を開始する」患者さんがいらっしゃいます。これはスピーディで良いことのように思われますが、実はいくつか気になる点があります。
まず、「緊張」 で血圧が上がってしまう方が一定数いらっしゃいます。10~20mmHgくらい上がる人もあれば、40~50mmHg ほども上がってしまう方もたまにお見掛けします。通常の血圧はおよそ120/80mmHg 程度と言われておりますので(ガイドラインでは、さらに、かなり細かく規定されています)、緊張で血圧が上がるタイプの方は、例えば自宅で上の血圧が 120mmHg でも、病院や健康診断での測定では170mmHg 位になる可能性があります。いわゆる白衣高血圧などと言われています。何を隠そう、これを書いている自分自身が白衣高血圧です。これを指標として内服薬を処方すると、普段の自宅での血圧は低くなりすぎてしまいます。
「診察室」での血圧は、ある程度の参考にはなりますが、血圧の内服をするにあたっては、「自宅での」 血圧測定がとても重要になります。
また、血圧は変動します。一拍ごとでも微妙に変わりますし、朝昼夕、睡眠時、食事や労働中などでダイナミックに変動します。季節による気温変動でも上下します。なので、一回血圧が高かった、といって心配する必要はほとんどありません。血圧以外に明らかな症状がなければ、その後、少し時間をおいて、緊張や疲れ、興奮などが落ち着いて測定してみて、低くなっていれば経過観察でよいと思われます。
気を付けなくてなならない高血圧、血圧上昇
ただ、逆に気をつける必要のある高血圧があります。大血管や脳血管障害に伴う血圧の上昇です。これは緊急性を伴う血圧の上昇となります。脳梗塞や脳出血に伴う血圧上昇は簡単には診断できませんが、よく見られる症状として、ろれつが回らない、めまい、物が二重に見えるなどの視力障害、力が入らない、麻痺などの運動障害、頭痛、嘔吐、意識障害などが出現している際は、緊急の対応、救急搬送などが必要となることがあります。また、解離性大動脈瘤といった大血管の障害でも高血圧を認めます。この症状は移動する背部痛(背中の痛み)などとよく言いますが、多くは非常に強い激痛なので見逃すことは少ないと思います。
なぜ血圧を下げるのか?
そもそも血圧を下げる理由は何なのでしょうか。意外に知られていませんが、ずばり「動脈硬化」を防ぐためです。
もちろん、血圧が急激に上昇して、血管が破れて破裂、そのまま出血するのを防ぐ事も一つの理由ではあります。しかし実際に多いのは、持続的に血圧が高いことで、血管の壁に日常的に圧力の負担がかかり、動脈壁が微細な炎症を起こし、徐々に血管の硬化が進行します。すると、血管が硬くなることで柔軟性が失われ、より血圧が高くなってしまうという悪循環になります。動脈硬化が起こると、脳梗塞、心筋梗塞といった血管が詰まる疾患や、動脈自体が裂けたり、大動脈瘤という血管が拡大してしまう疾患になることもあります。
このスパイラルを断ち切るために、「降圧薬」と称される血圧を下げる薬を服用します。
血圧を下げる薬
血圧を下げる薬にはいくつかの種類があります。覚える必要は全くありませんが、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、利尿薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、β遮断薬、α遮断薬などがあり、それぞれに特性があります。つまり、たくさんありすぎて、専門医でも選択がかえって難しいという事態になっています。
適切な薬を選択するためには、合併症や、年齢、食事、心機能、腎機能、電解質などいろいろな要素を検討する必要があります。服用し始めてからの副作用も確認しなくてはなりません。このため、本当に自分に合う降圧薬を選ぶことは簡単ではなく、数回の診察と検査を繰り返す必要があります。
また都市伝説的なところで、「血圧の薬は、始めたら一生やめられない」と言われます。これはある意味正しく、ある意味では間違っています。
基本的に血圧は年齢ともに上がってゆく傾向があります。つまり、血圧が上がってゆくので、やめられないというより、基本的に薬も増えてゆくのです。ただ、それに抗って、生活習慣を改善し、運動や減塩を徹底し、肥満傾向のある方はダイエットをして、かなりの努力の末に薬をやめられた患者さんもおります。しかし、基本的には40~50歳くらいまでの若年~壮年期の方で、その後は、やはり少しずつ血圧が上昇してしまうことはしばしばです。また90歳近くなると、体力の衰えとともに血圧も低下する傾向があり、その際は薬を減量します。
血圧を下げるために
高血圧は生活習慣病の一つとされており、日常生活でいくらか改善できることがあります。上にも書きましたが、改善しやすい方法と効果を考えて、まずは運動です。減塩と合わせて改善できればそれなりの効果が期待できます。(普段、あまり運動されてない方が運動した場合です。また、急に運動を始めるとかえって関節を痛めたり、体調を崩すこともあるので、慎重にゆっくり運動強度を上げてください。) 健康診断などで少し血圧が高い場合は、まずは生活習慣の改善を試みてそれでも下がらなければ内服薬の服用を検討するのが良いと思います。
また、喫煙をされる方は禁煙、体重が多い方は減量も効果的です。そのほかにもいろいろありますが、特に効果が出やすいのはこのあたりです。ただ、遺伝的要因もあるため、血縁のご家族が高血圧の方は、なかなか効果が出にくい可能性があります。その際は薬を服用していただきながら、上記の生活習慣の改善をした方が効率は良いかもしれません。というのもご自分の努力で下げられる血圧の程度には限度もあります。10~20㎜Hgは下げられても、生活習慣の改善だけで40~50mmHg ほどの血圧を下げるのはなかなか難しいと思います。あまり無理な生活を続けて健康を損ねてしまうのは本末転倒です。
まだまだいろいろと解説する要点はあるのですが、あまりに長くなってしまうのでとりあえずこの辺りでひと段落とさせていただきます。
最後に一つ、格言を。
「人は血管とともに老いる」
今から100年以上前のアメリカで、医学界では有名なジョンズ・ホプキンズ大学のウィリアム・オスラー博士(William Osler: 1849~1919)の有名な言葉です。現代社会の「生活習慣病」が多くの健康を損なう時代を予測していたのか、動脈硬化が人間の本来の年齢(寿命)を決めることを示唆しています。
四肢の血圧を図ったり、頸動脈のエコー検査で血管年齢を算出する検査もありますが、いずれにせよ、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などが大きく動脈硬化に影響を与えます。高血圧は生活習慣病と言われるゆえんでもありますが、日頃の生活習慣に気を付けながら、定期的な健康診断を是非お受けください。
何か気になる点がございましたら、お気軽にご相談ください。