• 11月 12, 2024

煎じ薬とエキス剤

漢方の薬には、大きく分けて、一般的な一回分ずつ包装された顆粒の薬(エキス剤)と、昔ながらのお茶のように煮出す煎じ薬があります。

それぞれ長所と短所がありますので、今回はそのあたりをご紹介したいと思います。

もともとの、昔からある漢方薬は、基本的に「煎じ薬」でした。お湯に煮出した成分を数回に分けてお茶として服用します。しかし、火にかけて煎じ薬を作るためには、いわゆるお茶を淹れるのとはまた別で、数十分~小一時間の抽出時間が必要になります。それなりに火加減もあり、煮出した後は別容器に移し替えて保管という手間もあります。

日常生活の中で、毎日、時間をかけて薬を煮出すのはとても不便なため、丸薬という蜜などで固めたものや(外出先で飲めるように)、散薬といって粉にして服用するものもありました。現代では、薬局によっては煮出した抽出液をパック包装してレトルトパックのように保存できるようにしている店舗もあります。


益剤のレトルトバッグとはまた別で、現代で多く使用される「エキス剤」と呼ばれるものは、抽出された原薬をできるだけ含有成分が変化しないよう(熱を加えないよう)乾燥粉末化して、保存に適した顆粒を製造し、1回分ごとにアルミ包装します。この技術革新により、昔に比べ格段に漢方が身近なものになりました。

昔ながらの煎じ薬

長所 煎じ薬は2千年前から使用されており、生薬を煎じてお茶のように成分を煮出した「煮汁」を服用するのが本来の形です。薬剤一つ一つを症状、体質に合わせて調合するので微調整や、その人に合わせた独自の調合をすることがでます。一般的なエキス剤(現代の顆粒状の漢方薬)よりも効果が強いとされており、香り、匂いなどの揮発成分などもしっかり含まれるためより強い効果が期待できます。

短所 保険が効かない場合が多く、金額が高くなりがちです。使用する生薬にもよりますが一か月で数万円になることが多くあります。多くは1日分の生薬をティーバッグのような形で処方されるため、それなりにかさばり、またその生薬を適切に保管し管理しなくてはならず(カビが生えてしまうこともあります)、小一時間かけて煮出した抽出液も早めに使用し、保存する際は冷所保存など、なかなか手間がかかります。また煮出す時の「におい」も強く、自宅内で魚を焼く程度の影響は考慮する必要があります。健康のためとはいえ、それが毎日となると集合住宅などでは、周囲に気を遣うかもしれません。



現代版漢方 エキス剤

長所 保管がしやすく、水さえあれば、どこでもいつでも服用できることが最大の利点と思います。効果も煎じ薬ほどではないかもしれませんが、それなりに期待できます。密封包装されているため、開封しなければ長期に保存でき、かさばらないので(西洋薬の錠剤ほどではありませんが)、持ち運びもしやすくなっています。毎日の服用時に煮出す工程もないので、時間をかけたり、道具を用意する手間もかかりません。

短所 やはり煎じ薬に比べると、決められた配合の方剤になるため、小回りが利かず、匙加減ができません。この薬に含有されている下剤の成分だけ少なくしたいけれど…、という事が難しくなります。ある程度は薬の増減や、組み合わせを考えて対処可能ですが、煎じ薬の自由な調剤にはどうしても敵いません。しかしながら、多くの患者さんにおいて、おおむね既存の処方で間に合うことが多いと思います。

効果が薄い場合に煎じ薬にすることがありますが、必ずしもしっかりと効果が出るとも言いにくいところです。どうしても煎じ薬でないと効果が出ない場合のみ、上記のような手間をかけてでも煎じ薬での治療をお勧めしています。

現在のところ、当院では煎じ薬の処方はしておりません。正直、煎じ薬を処方出来たら、もう少し違う処方もできるのかなぁ、と思うことはありますが、煎じ薬でなくては効果がない、というのはレアなケースです。

患者さんの体質に合わせて処方する漢方薬ですが、もし効果がない、もしくは出にくい場合は、全く別の視点から、体質、治療方針を見直してみる必要があります。西洋医学では全く改善が望めない症状も、東洋医学では改善できる可能性があります。煎じ薬、エキス剤にかかわらず、複雑な人体のシステムを調整する治療体系のために、場合によっては即効性がないこともご理解いただき、数週間~数か月はあきらめずに治療を続けることも大切です。

気になる症状、お困りの病状がありましたら、お気軽にご相談ください。

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