- 10月 28, 2024
風邪の漢方 その2 ~実証と虚証~
今回は風邪の解説として、少し踏み込んだお話で、体力の有無と、発熱に伴う「汗」について、東洋医学的な考え方を深堀りしてみたいと思います。
感冒症状の初期で、寒気や発熱があった際に、続けて「汗」をかくことがあると思います。この、発熱に伴う汗ですが、体質によって大量に汗をかく方と、じんわりと汗ばむ程度の方がいらっしゃいます。これは体力の違いによるものと考えられており、東洋医学では「実証」(体力のある方)と「虚証」(やや弱って痩せている方)と表現しますが、体力のある方(実証の方)のほうが菌やウイルスに対して強く反応する結果、激しく発熱して、一気に大量の汗をかくことが多いようです。もちろん、この汗の量は絶対的なものではなく、風邪の程度や気温、その時の体調、環境でもある程度変化します。
実証の方はウイルスや細菌に対する反応が強いという事であり、虚証の方は反応が穏やかになります。東洋医学的にはこの病邪に対する反応により薬を変えて処方します。一般的に使われる葛根湯や麻黄湯と言われる薬は、風邪の初期に、強く反応を起こすタイプの人、特に寒気(悪寒)が強く、その後に高熱が出る人、首のあたりのコリ、頭痛が強い人に処方します。
薬の働き方としては、寒気があり、発熱がまだ上がりきっていない状態の人に、体の内部はむしろ温め、皮膚表面の血管を拡張し、続いて発汗を促すことにより、汗により表面的な熱を下げる治療になります。これを東洋医学で「解表」と言います。発熱している(しかかっている)のに温めるのか?という疑問はあるかと思いますが、体の内部の熱は上げた方が免疫力は強くなり、出るべき熱を早めに出して、表面的には汗を促して表面温度を下げる方向にバランスを取ります。
ここで無理に熱を下げるような解熱剤を多く使用すると、上がるべき体温が上がらず、自身の免疫が働き切らずに、風邪の治癒過程にうまく移行できないことがあります。
では逆に反応の弱い人(虚証の人)はどうでしょうか。
虚証の方は、感染症に対する反応が弱いため、寒気も強くなく、発熱もあまり高くならない傾向があります。発熱後の汗もじっとりとかいて、皮膚がかるく湿る程度です。あまりに弱っていると、風邪をひいたという実感がなく病状が進行し、気が付いたときはかなり重症になっていることもあります。
このような虚証の方の場合は、風邪症状に対して実証の方と同じように、発汗を促す漢方を使用すると、必要な水分が失われて脱水、虚脱傾向になってしまい、返って病状が悪化することがあります。体を温めるのは同じですが、「じんわり」とあたため、あまり強力に汗を出させることのない薬を使います。桂枝湯、麻黄附子細辛湯といった漢方が使われることがあります。ただ、これらの体を温めるのは、ある程度の適切な量の汗が出てくるまでの「風邪の初期のフェーズ」で、その後に続く症状によって中間期の漢方の治療に移行してゆきます。
風邪のフェーズの移動もそうですが、体力のあるなしでの判断は、どちらとも言えず真ん中(中間証)という事もあり、診断に迷うこともあります。
外見からは弱そうに見えても、実は反応は強い方もいらっしゃいます。その時の患者さんの雰囲気や、声や目に力があるか、疲労の状態、普段の食欲、便通、運動習慣なども関係してきます。当院に風邪症状などで受診する際は、感冒症状とは全く関係しないような質問をすることがありますが、大変つらい中とは思いますが、このような判断の材料になるので、診療の際にはぜひご協力をお願い申し上げます。
以上、風邪の際の実証、虚証の少し踏み込んだ漢方の話でした。小難しい用語が多かったので、わかりにくい部分もあったかと思います。どうかご容赦ください。
この記事がご自身の体質に合う漢方を探す一助になれば幸いです。何か気になる症状などございましたらお気軽にご相談ください。