- 1月 19, 2026
RS ウイルス感染症 と 予防接種について
最近、少し話題になっている「RSウイルス」とその予防接種について、患者さんからご質問がありました。今回はこのRSウイルスについて簡単ですが解説をしたいと思います。
正直なところ、あまり知られていないRSウイルスですが、その概要を学ぶ手助けになれば嬉しい限りです。まずはウイルスについての説明と、感染症についての概略になります。
RSウイルスの頭文字の 「RS」 は、「Respiratory Syncytial Virus(レスピラトリー・シンシチアル・ウイルス)」の略になります。日本語では「呼吸器合胞体ウイルス」とされており、呼吸器の細胞がウイルス感染により合胞体(融合した細胞)になることからその名がついたとされています。

● RSウイルスの特性
世の中には例えばインフルエンザやコロナ、エイズウイルスなど、その他にも多くのウイルスがありますが、RSウイルスはその中でも少し特徴的な立ち位置にあります。
①「誰でもかかる」けれど「重症になる人が限られる」ウイルス
RSウイルスは、ほぼすべての人が幼少期に感染します。また、人生の中で何度も感染する(免疫が長続きしない)ものの、多くの人では軽症で済む非常に身近なウイルスです。感染力は強く、飛沫感染、接触感染も起こします。
一方で、乳児や高齢者、心臓・肺に持病のある方、免疫力の落ちているでは、重症化しやすいという特徴があります。
「ありふれているのに、油断できない」これがRSウイルスの大きな位置づけです。乳幼児や高齢者での重症化するの感染症では、このRSウイルスの感染症が原因の一つとして疑われます。また、一般的な成人でもインフルでもコロナでもないのに、感冒症状が数日では治らず、呼吸器症状が長く続く、あるいはこじれて重症化、肺炎化する風邪の中に、このRSウイルスによる感染症が隠れています。
② インフルエンザや新型コロナとの違い
インフルエンザは突然の高熱があり、全身症状が強く、健康な成人でもつらいものです。しかし、診断がつけば、特効薬として抗インフルエンザ薬があります。新型コロナも肺炎になったり、全身への影響があるものの、診断がつけば(高額にはなりますが)内服の治療薬があります。経過としても基本的には5日から1週間ほどで改善すことが多い疾患です。
これとは対照的に、RSウイルスは高熱は出ないことも多く、気道(特に細い気管支)を狙うウイルスです。赤ちゃん(特に生後6ヶ月未満のお子さん)ほど重症化リスクがあり、残念ながら特効薬はありません。
③ 「気道が細い人」を狙いやすいウイルス
RSウイルスの最大の特徴は、気管支の奥まで入り込み、炎症を起こしやすいことです。そのため、気道が細い赤ちゃん、呼吸機能が低下している高齢者、COPD・喘息・心疾患がある方では、呼吸が苦しくなりやすいのが特徴です。
● 診断について
RSウイルスの感染の診断方法については主に2種類あり、病原体のたんぱく質を検出する「抗原検査」と、病原体の遺伝子の検出や増幅を行う「PCR検査」があります。(残念ながら当院ではRSウイルスの検査を行っておりません)
抗原検査は30分程度で比較的簡便ですが、偽陰性の率が高く、RSウイルス感染症なのに陰性という結果になってしまうことがあります。また、PCR検査は抗原検査よりも正確ですが、機器にもよりますが判定まで時間がかかることが多いです。またPCR検査でも 1~30%(検査法で異なります)ほどの患者さんで偽陰性(30%の場合は、10人RSウイルス感染のある患者さんを検査して3人は陰性となってしまう)となるといわれております。
他にも静脈採血を行って補体結合を用いてを感染を検出する検査もありますが、日数もかかりあまり一般的とは言えません。
RSウイルスには特効薬もないため、検査で陽性となっても治療方法はあまり変わらないという結果にもなりえます。ただ、陽性となってRSウイルス感染症と診断された場合は、重症患者さんであれば早めに入院の必要性の判断ができたり、対症療法にはなりますが治療方法の選択などを早めにできること、比較的軽症の患者さんでも高齢者や乳児に近づかないように生活上の注意を意識できるというメリットなどがあります。ただ、一般的な診療所ではRSウイルスの検査をしていないところも多いようです。
● 年齢による注意点、症状の違い
赤ちゃん・乳幼児は特に注意が必要です!!
- 生後6か月未満
- 早産で生まれたお子さん
- 心臓や肺に持病のあるお子さん
で、下記のような症状があれば、要注意です。
- ミルクや母乳の飲みが悪い
- 呼吸が早い、苦しそう
- 顔色が悪い、元気がない
- 呼吸のたびに胸やお腹がへこむ
このような場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
高齢者
高齢の方では、発熱が目立たないことがあり、咳や息切れなどの上気道炎症状や、食欲低下がみられることがあります。ただの「かぜ」だから大丈夫と思っていたら、重度の肺炎になっていたなどの可能性があります。息苦しさや元気のなさがある場合は受診をおすすめします。
成人
成人では、多くの場合軽いかぜ症状で済みます。ただ、体調が悪かったり、疲労、免疫力の低下などから悪化してしまうと、咳が長引く、倦怠感が長引くなどの症状が出やすいといわれています。この結果、症状がはっきりしないままキャリアとなってしまい、赤ちゃんや高齢者にうつしてしまうことが問題になります。ご家族に小さなお子さんやご高齢の方がいる場合は、風邪症状、倦怠感、体調不良が長引いている場合は特に、接触を控えることが大切です。
◆ ワクチンについて ◆
RSウイルス感染症について、特別に効果のある治療法はありません。対症療法として、解熱剤、鎮咳薬、漢方薬などと使用します。ただ、予防のためのワクチンが存在しており、このブログを書いている令和8年1月時点では、妊婦さん向けのワクチンと、高齢者向けのワクチンが存在しています。
・ 妊婦向けRSウイルスワクチン(母子免疫)
妊娠中に母親が接種し、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体を移行させることで、生後6ヶ月までの重症化を防ぐワクチンです。
- ワクチン名: アブリスボ(ファイザー)
- 接種時期: 妊娠24週〜36週(特に28〜36週が推奨)
- 費用: 自費診療(約30,000円〜40,000円前後)
- 注意点: 2026年4月より定期接種化(原則無料)の方針。
・ 高齢者向けRSウイルスワクチン
60歳以上の高齢者を対象に、肺炎や気管支炎などの重症化を予防するワクチンです。
- ワクチン名: アレックスビー(グラクソ・スミスクライン)
- 対象: 60歳以上
- 費用: 自費診療(約23,000円〜30,000円ほど)
- 効果: インフルエンザやコロナと同様、重症化リスクを大幅に下げる。
・ 乳幼児向け抗体製剤(シナジス)
ワクチンではありませんが、RSウイルスに感染すると重症化しやすいハイリスクの赤ちゃん(早産児、心疾患を持つ子など)を対象に、流行期間(秋〜春)に月1回の筋肉注射を行い、重症化予防効果が期待される予防法があります。 これはワクチンではなく RSウイルスが体内で増殖するのを防ぐ抗体そのものを注射で投与します。対象となる患者さんはかなり限定され、免疫不全児や心肺疾患のある乳幼児など、重症化リスクの高い対象者に、流行期(秋~春)に毎月1回投与されます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。あまり専門的な言葉を避けて解説してみましたが、かえってわかりにくくなってしまったかもしれません。いうなれば、「気管、気道の感染という特徴」があるものの、存在がはっきりしない、ふんわりとした存在感の感染症です。ただ、ときに悪化して、かなり苦しい思いをされる患者さんも少なからず存在しており、決してありふれた感染症として、軽視、無視することができないのが RSウイルス なのです。
何か気になる症状などがありましたら、お気軽にご相談ください。(上記のような事情のため、大変恐縮ですが、当院の外来ではRSウイルスの検査は施行しておりません。高齢者のRSウイルスワクチンにつきましては、予約にて承っております。妊婦さんへの接種は行っておりませんので何卒ご了承ください。)