- 8月 1, 2025
- 8月 2, 2025
皮膚科の漢方
皮膚科領域で使用される漢方の解説になります。まず、第1回として代表的な皮膚症状に対し、ざっくりな分類で、よく使われる漢方と、簡単な使い分けを紹介してみます。同じ皮膚症状でも原因はいろいろあるため、ご紹介しているもの以外でも効果が見られるものが多くあります。違う症状にも同じ漢方が出ている場合もありますが(異病同治 :過去記事 → オーダーメイドの治療 )、全く違う病気でも同じ漢方が奏功することがあります。箇条書きにしておりますが「これだけ」という訳ではなく、よく使用される代表的なものをご紹介させていただきます。
漢方を処方する際は、体質や東洋医学的に見た体のバランスを考慮します。いわゆる 「証」 と呼ばれるものになりますが、この証を診ながら、体や症状の変化に合わせて、処方を変えてゆきます。
参照 別記事 → 東洋医学的な診断、「証」について
体質を診ながら、また薬への反応を診ながら、逐次、戦略と戦術を練ってゆきます。(‘◇’)ゞ
今後も、皮膚科領域の疾患別の記事も少しずつ書いてゆけたらと思っています。取り急ぎまとめ記事として皮膚科領域の漢方を列記してみました。粗削りな記事で申し訳ありませんが、ご参考になれば幸いです。また、書き漏らしや、補足も含め、この記事の情報の更新も適宜してゆく予定です。

かゆみ
- 黄連解毒湯 比較的体力のある方の湿疹、イライラなど
- 温清飲 かゆみと肌荒れ、上記の黄連解毒湯と四物湯という薬を合わせたものです。
- 当帰飲子 高齢の方や体力低下があり、乾燥肌で慢性的に湿疹を伴うかゆみ
- 消風散 やや湿潤を伴う湿疹に
- 治頭瘡一方 顔面、頭部の湿疹、びらん、分泌物掻痒感があるときに、小児の湿疹、くさ等
- 桂麻各半湯 やや虚弱な方のかぜ症状を伴う、皮膚の痒み
- 真武湯 高齢の方のかゆみに
肌荒れ
- 桂枝茯苓丸加ヨクイニン 軽い便秘、皮膚の血行障害が疑われるときに。
- 温経湯 乾燥、ほてりと冷え、更年期障害、ストレスがあるときに。
しもやけ
- 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(+ 桂枝茯苓丸) 合併症として頭痛があるときにおすすめです。
- 温清飲 かゆみが強いときに。
- 紫雲膏(漢方の塗り薬です) カサカサ、乾燥が強いときに。

帯状疱疹:水ぶくれ
- 越婢加朮湯 胃腸にやや負担をかけることがありますが、水ぶくれに使用されることがあります。
汗疱
- 防己黄耆湯 下肢の浮腫、膝の痛みがあるときには第一選択です。
- 越婢加朮湯 汗を少なくする効果がありますが、胃腸に負担がかかるため、注意が必要です。
- 温清飲 炎症を起こしてかゆみが強いときに。
- 三物黄ゴン湯 手足のほてりが強いときに使用します。
湿疹
- 消風散 ジュクジュクして、浸出液の強い炎症に。
- 黄連解毒湯 かゆみが強い湿疹に使用します。
- 温清飲(黄連解毒湯+ 四物湯)かゆみが強く、周囲の肌の荒れや血色が悪い方に。
- 治頭瘡一方 ジュクジュクが強い頭の湿疹に。
- 柴胡清肝湯 小児の湿疹で、風邪をひきやすく、扁桃腺がよく腫れる方に使用します。
蕁麻疹
- 葛根湯 風邪の薬ですが、意外に湿疹にも効果があります。
- インチン五苓散 五苓散に茵蔯蒿という生薬を加えたものです。
- 十味敗毒湯 慢性湿疹、原因のよくわからない蕁麻疹に。
ニキビ
- 荊芥連翹湯 副鼻腔炎など合併するニキビに。
- 清上防風湯 ほてりが強い、若い方のニキビに。
- 桂枝茯苓丸加ヨクイニン 便秘気味、月経に伴う増悪

化膿を伴う皮膚炎(黄ニキビが多い方にも)
- 排膿散及湯 粉瘤、発赤、腫脹、化膿を伴う皮膚炎に
- 十味敗毒湯 散発、びまん性発疹で浸出液の少ないもの。
※残念ながら昔のニキビ跡(クレーター)に効果的な漢方は、なかなか思い当たりません。美容医療で行わるレーザー治療などの方が期間的にも早く改善が期待できます。ただ直近のニキビの治癒過程であれば「桂枝茯苓丸」などの駆瘀血剤と言われるものが効果がみられるかもしれません。
発汗・汗かき
- 防己黄耆湯 むくみと関節痛があれば
- 三物オウゴン湯 手掌や足裏の「ほてり」と発汗
- 三黄瀉心湯 のぼせ、顔面紅潮、イライラ、特に便秘のある方に。
- 黄連解毒湯 実証(便秘傾向、下痢をしにくい方)に
- 越婢加朮湯(短期的な使用) 緊急的に発汗を止めたいとき。
- 白虎加人参湯(短期的な使用) 実証の方で、ごく軽度の熱中症、ほてり症状が強い方
- 加味逍遙散、女神散 のぼせが強い方、便秘気味の方、月経に伴う症状の方
- 補中益気湯 気力が低下、食欲低下、寝汗をかく方に

掌蹠膿疱症
- 温清飲、三物オウゴン湯 手や顔のほてりが強いとき、
- 桂枝茯苓丸 少し便秘気味、皮膚の色素沈着をしやすい方
- 十味敗毒湯 化膿性皮膚炎、蕁麻疹など全身の皮膚症状もある方
- 消風散 ジュクジュクした浸出液の多い病変の方
- 白虎加人参湯 ほてりが強く、特に全身のほてりがあり、胃腸の強い方
- 大防風湯 関節痛のある方、リウマチがあり、筋力低下も見られる方
- 四物湯 血色不良の方に追加で処方することがあります。単独ではあまり使いません。
※特に重症の場合は、これらを組み合わせて使用します。また、全身的な体質を診ながら、生活習慣の見直し、養生も含めて治療に当たります。

アトピー性皮膚炎
- 黄連解毒湯 かゆみが強いときに。とても苦いので、お子さんの内服は難しいかもしれません。
- 十味敗毒湯 全身のいろいろな皮膚炎がみられるときに
- 桂枝茯苓丸 血行不良、色素沈着が強いタイプの方、やや便秘気味の方に。
- 補中益気湯 食欲不振、元気のないタイプの方に。
- 黄耆建中湯 (小児、幼児)お子さんの皮膚炎、アトピー性皮膚炎の方によく処方します。
- 治頭瘡一方 頭の湿疹、痂疲(かさぶた、黄色のかさぶた)が多い方に。
- 温清飲、柴胡性肝湯 風邪をひきやすい方、肌が荒れやすい方、ストレスのある方に。
以上、ざっくりと代表的な皮膚症状に対して、よく使用される漢方を箇条書きでご紹介させていただきました。西洋薬で改善しない場合や、明らかに体質的な血行障害などがみられる方には漢方の服用をご提案させていただいております。正直なところ、漢方でもなかなか改善しない場合もあります。ただ、いくつかの漢方を試していただいて、体質に合う漢方が見つかり、劇的な効果が出る方もいらっしゃるので、服用の際は少し気長に治療にお付き合いいただければと思います。

漢方治療は、たとえ皮膚症状を目標に使用する場合でも、全身的な症状を診ながら治療に当たります。この皮膚疾患にはこの漢方!と言えないのが玉に瑕で、診断がついたとしても簡単にはいきません。いろいろな体質、習慣にに関するお話と、体の反応を伺いながら、有力な候補を絞ってゆきます。そのために、皮膚症状とは関係ないような所見をお聞きしたり、脈をとったり、おなかの診察をしたりすることがありますが、何卒ご了承ください。
最後までお読みいただきありがとうございます。少しでもお困りの症状に役立つ情報があったら喜ばしいかぎりです。何か気になる症状がありましたら、お気軽にご相談ください。