- 3月 4, 2025
- 3月 6, 2025
春の養生と漢方
冬の気候が少しずつ和み、春一番が吹いて、暖かいなと思える日が増えてくると、春の兆しに気分も少しずつ晴れやかになります。ただ、花粉症をお持ちの方は憂鬱な症状も出てくるようになります。そのような春の過ごし方と漢方について少しお話したいと思います。
春という季節は、2月初めの立春からとする考えもありますが、2月中旬から下旬くらいまでは、まだまだ寒い日が続いています。気象学的には、やはり春の時期と言えば3月から5月ごろというイメージのようです。植物が芽吹く季節であり、虫も土から顔を出し、桜も咲き、わが国では年度末から年度初めという節目の時期にもなります。

生活や仕事、学業などの身の回りの環境が変わる方も多い季節になります。長い冬ごもりが終わり、暖かい春の日差しの中に駆け出したくなる季節かもしれませんが、体調不良の原因になる要因がいくつかありますので、そのあたりを解説してゆきたいと思います。
東洋医学的な「春」の位置づけ
基本的に春は 「肝」の季節とも言われ、冬に蓄えられたエネルギーを発散させてゆく季節です。
東洋医学的に「肝」と呼ばれるものは、単に臓器としての「肝臓」という事ではなく、体のエネルギーの供給源、気を巡らせる発電機的な位置づけになります。なので肝が高ぶれば、気分は高揚し、行き過ぎれば怒りとなり、肝火上炎と言って、精神や体調を損なうまでの不調となることもあります。また溜まったエネルギーを発散できないと、肝気鬱結といって、体内でストレスとして溜まってしまい、これはこれで、様々な痛みや不調などの症状を引き起こします。
大切なのは、「適度に」 エネルギーを産生、循環させて、それを発散させてゆく「春の活動のリズム」を作ることです。
具体的な行動としては、たまに意識的に深呼吸をしたり少し深い呼吸を心がける、食べるだけでなく排便を促す、筋肉を伸ばし運動を少しずつ増やす。感染症に気を付けながら周りの人との交流、コミュニケーションを増やす、などなどをお勧めします。
春に良いとされる養生 ~肝を整え、気を巡らせる~
まずは食べ物です。どの季節も同じように旬のものを食べるのは良いことと思います。春の旬の物はおすすめです。前述のとおり、気力体力の調節、循環と、便秘の解消が大切です。体調に合わせて、
- 便秘気味の方は、苦みのあるもの
- 山菜、菜の花、ふきのとう、筍、わけぎ、繊維質の多いもの
- いまいち元気の出ない方は、エネルギー産生に結びつくもの(補脾)、肝を働かせる酸味など
- 米、大豆、しいたけ、ハマグリ、長芋、はと麦、えんどう豆、
- 梅干し、酢の物、柑橘系の果物、イチゴ、など
- エネルギーが余ってイライラやのぼせのある方は、気のめぐりをよくするもの
- クレソン、セロリ、春菊、三つ葉、しそ など
などが食べ物としておすすめです。

また冬の間に寒さと運動不足で凝り固まった体を、徐々に動かして血液の循環を促します。やる気を出しすぎて、急に動くと体がついてゆかないこともあるので、無理せず体調をみながら徐々に運動強度を上げることをお勧めします。

その他、睡眠に関しては、よく「春眠 暁を覚えず」といいますが、朝の眠り心地のよさから、ついつい起きるのが遅くなりがちです。ただ養生の面から言うと、日中しっかり過ごすために、少し早起きをお勧めします。冬の間は睡眠時間を長めにと言っていましたが、暖かくなってくる春にはやや短めに戻して、その分、活動量を増やす方が良いといいます。気候的には乾燥があり、三寒四温という言葉もある通り、気温、天候も変わりやすいため、花粉症も加わり、のどをやられたり、風邪などをひきやすい季節です。予報をチェックしながら衣服、暖房器具の調整、花粉対策に気を配るとよいと思います。
また夏に近い話にはなりますが、4月を過ぎたあたりで、5月病と呼ばれるストレスや、メンタルの不調もこの時期の不調に見られます。いわゆる「ストレス」については、また別の記事で解説を考えていますが、少しだけ触れてみます。
ざっくり分類になってしまいますが、ストレスには良いストレス(乗り越えられるストレス)と、悪いストレス(どうにもならない原因のストレス)があります。乗り越えられれば、成長や満足感にもつながりますが、逆に、絶対に乗り越えることができないというストレスも存在します。運動や休養などの気分転換や、身近な人へのご相談などで軽減、解消できれば良いのですが、ご自分で対処、処理できないストレスが多くなってしまう場合は、漢方の服用などもご検討ください。ストレスからくる症状(落ち込み、イライラ、怒り、不安など)や本来の体質により、内服薬を検討してゆきます。
春の漢方薬
では最後に春によく使用される漢方薬を紹介したいと思います。
・元気が出ない、エネルギー不足
「香蘇散」 (こうそさん)
シソが含まれる漢方です。副作用がほぼなく、気分的に滅入ってしまう状況を少しだけ軽減します。
「補中益気湯」(ほちゅうえっきとう)
食欲を出しつつ、元気、やる気を出したい人に。食欲も出るので、体重増加に注意が必要です。
・イライラ、気分の高ぶり
「加味逍遙散」(かみしょうようさん)
いわゆるイライラが強く、いろいろな症状がある方に。
「抑肝散加陳皮半夏」(よくかんさんかちんぴはんげ)
怒りを鎮めつつ、少し元気を出してくれます。
「柴胡加(桂枝加)竜骨牡蛎湯」(さいこか(けいしか)りゅうこつぼれいとう)
不安や、焦燥感が強い方に。便が緩くなることがあります。落ち込みが強い方は桂枝加竜骨牡蛎等をお勧めします。
・メンタルストレス、5月病
「抑肝散」
フツフツと湧き上がるような「怒り」が強い方に。言葉にできないストレスに良いといわれます。気分的な落ち込みがあったり、服用しておなかの調子が悪くなる場合は、上記の陳皮半夏を加えたものが良いと思います。
「四逆散」(しぎゃくさん)
ストレスでおなかの筋肉(腹直筋)が硬く張っている場合などに服用してもらうことがあります。体力に合わせて大柴胡湯、小柴胡湯などに変更することもあります。
「半夏厚朴湯」(はんげこうぼくとう)
いろいろ気になってしまう方、のどの違和感がある方、真面目で完ぺき主義、やりきらないと気が済まない性格の方に。
・花粉症
「小青竜湯」(しょうせいりゅうとう)
有名な漢方の花粉症の薬ですが、麻黄という生薬が入っており、胃腸の弱い方は腹痛、胃もたれなどが出ることがあり、下記の苓甘姜味辛夏仁湯へ変更もよいと思います。
「葛根湯加センキュウ辛夷」(かっこんとうかせんきゅうしんい)
有名な葛根湯に生薬を加え、鼻の症状にも効果があります。鼻ずまり、副鼻腔炎になっている(なりかけている)ときなどにも良いと思います。
「苓甘姜味辛夏仁湯」(りょうかんきょうみしんげにんとう)
小青竜湯から麻黄をぬいて、胃腸にやさしい分、効果も優しくなっていますが、西洋薬の薬で眠気が出てしまう時にはこちらも候補になります。
「玉屏風散」(ぎょくへいふうさん)
風邪の予防、花粉症の予防などで使用されます。のどや気管支のイガイガなどがある場合も効果的です。基本的に治す薬というより予防をする薬になります。試験のある方や、風邪が引けない場面などで、あらかじめアレルギーなどがないか確認しておき、大切な時期に感染予防目的に服用していただいてもよいかもしれません。抗ウイルス作用を持つといわれるバンランコンという生薬と一緒に服用するのも効果的です。一般のドラッグストアなどでは販売されていないこともあり、漢方薬局などにお問い合わせいただくとよいと思います。衛益顆粒という名前で販売されていることもあります。
以上、駆け足ですが、春の話題について、東洋医学的な解説(雑談?)をさせて頂きました。あまりまとまっていませんが、何か気になる話題、ご質問などありましたら、お気軽にご相談ください。