- 2月 13, 2025
- 2月 20, 2025
怪我、打ち身の漢方
意外に思われるかもしれませんが、打ち身や打撲、骨折、筋肉痛などにも効果がみられる漢方があります。今回はそのような外傷時に使用される漢方について、少し解説してみたいと思います。魔法のような、例えば折れた骨を立ち所に癒合するほどの力はありませんが、打撲や腫脹などの回復を早めてくれるサポート的な効果になります。
まだ漢方を学び始めたころの事です。勉強をしてゆく中で、様々な症状に効果がみられることを知ってはいましたが、初めて「怪我に効く漢方がある」と知ったときは、正直、自分自身でも信じられない部分がありました。しかし半信半疑で、実際に自分で服用してみると、不思議に効果がみられ、打ち身などのけがはもちろん、運動後の筋肉痛なども格段に楽になりました。冒頭でも申し上げた通り、TV ゲームや異世界の「ポーション」のように、瞬間的に治るものではありませんが、服用後、しばらくすると意外に楽になるので、今でも正直、不思議な気持ちです。

もし、この記事で初めて怪我に効く漢方があると知った方にとっては、眉唾というか、にわかには信じきれないと思います。
その薬効の機序(効果の出る仕組み)を簡単に解説いたします。
怪我や外傷を負うと、周囲が腫れたり、血腫(ケッシュ:皮膚の下の血の塊 ;たんこぶ等)などによって「血の滞り」がある部分ができます。これを東洋医学的には一種の「瘀血」(オケツ)と呼びます。この瘀血に効果的な漢方が数種類あり、特に外傷に効果のある生薬を加えて、局所の血の巡りを改善して炎症をより早期に治癒させます。云い方を変えれば組織破壊による「炎症」は起こすものの「必要以上の炎症を抑える治療」といってもよいと思います。続いて、この辺りをもう少し詳しく解説してみたいと思います。

ちょっと専門的なお話になってしまいますが、そもそも、怪我や外傷を受けた部位は、細胞レベルで組織が損傷を受けます。この多くのダメージを受けた細胞や血管(内皮、微小血管)から、インターロイキンやTNFなどの「サイトカイン」と呼ばれる炎症を惹起する物質が細胞から放出され、周囲の組織に影響を与えます。これにより、抗病反応として免疫反応を増強させる(炎症をおこす)とともに、血管を収縮させたり、血小板や赤血球を凝集させて血栓を作ったりして出血を止める働きをします。

これは、けがによる出血量を減らしたり、病原菌などに対する防御反応でもあり、細菌などが体内に入ってきた時に、その区画を封鎖し、外敵をせん滅するために防御態勢を整える反応になります。つまり生命を守るために必要な反応なのです。一方、この反応が過剰になると、自己を構成する正常な組織、成分を傷つけたり、周囲の正常な血液の流れまでも阻害し、腫れたり赤くなったり、代謝が阻害され痛みが続いたりして、結果的に苦しんだり、治癒を遅らせてしまうこともあります。
この「余分な反応を予防」することが主軸の効果になります。ただ、同じ「炎症」でもいわゆる関節炎や、細菌感染に伴う膿瘍(ノウヨウ:膿が溜まってしまう)などは別の病態なので、それはそれで別の機序、効果の見られる漢方があります。(その解説はまた別の機会にさせてください) 今回は、あくまで骨折、筋肉、打撲のダメージという外傷の類の解説になります。

骨折も漢方で治る?
骨折にも効くとは申しましたが、完全に折れた骨が漢方で自然に治る(癒合する)ものではなく、また例えば骨折して激しく出血しているような場合に、出血が止まるものでもありません。

何度も申しますが、真っ二つに完全に折れた骨は漢方では治りません。完全な治癒には手術などの処置が必要です。圧迫骨折して曲がってしまった背骨も、漢方で元の形には戻りません。ですので、もし外傷などで受傷し、強い痛みがあるときは、まずは外科など、外傷の診療ができる医療機関で西洋医学による適切な検査と処置をお受けになってください。そのうえで、漢方も併用すると余分な炎症が抑えられ、回復、改善がはやくなるという付属的な効果になります。
では実際に怪我に効く漢方は何?
実際に漢方薬として外傷によく使用されるのは、まず「治打撲一方」(ヂダボクイッポウ)です。
江戸時代に作られたこの薬は、戦闘などで負傷した兵士にも使用されていたことがあるようです。医師で儒学者の香川修庵(かがわしゅうあん、1683~1755)により創薬されたと伝わっています。古代の中国から伝わった薬ではなく、割と最近(?)に日本で作られた漢方になります。
その他に同様の駆瘀血作用という力を持つ漢方として、「桂枝茯苓丸」、「通導散」、「桃核承気湯」も、別の病態への効果も期待しながら使用されることがあります。それぞれに性格みたいなものがあって、使いどころが違います。特に下剤としての力が異なり、自己判断で服用する際は注意が必要です。これは、もちろん副作用としての下痢が出てしまうことでもあります。しかし、逆説的に申し上げると、多くの外傷、怪我の場合には、その痛みのストレスなどから交感神経優位となり、便秘傾向になることが多くあります。そして一般的な意味合いでも便秘を改善すると、不思議と全身的な血の巡りもよくなることがあるようです。外傷に対する「治打撲一包」に下剤があらかじめ含有されるのは、ある意味、とても理にかなっていると感心します。実際、骨折などの患者さんに処方するときに、「一度下痢をするまで服用してください」と説明しながら処方することがあるくらいです。(もちろんその後は中止したり減量してもらいます。)
もし、けがや打撲、骨折を受傷された場合、まず受診するのは整形外科など、外科系の診療科になると思います。初期治療といった適切な治療を受けたうえで、もしご興味があったり、少しでも早く治したい方は、追加の漢方服用について、ご検討をいただいてもよろしいかと思います。何か気になること、ご質問がございましたら、お気軽に受診、ご相談ください。