- 11月 30, 2024
- 12月 2, 2024
心不全について
今回は西洋医学的な「心不全」という病態について解説いたします。ちょっと長いです。スミマセン
心不全という病名、どこかでお聞きになったこともあるかと思いますが、名前そのもので心臓が悪いという事は明らかですが、詳しい病態についてご存じの方は少ないと思います。詳しい数値や、専門的な定義などはまた別の機会にしますが、大まかな病気の概念についてお話しできればと思います。
最近は心不全パンデミックと言われており、高齢者の増加の影響で、心不全の患者さんの大幅な増加が起こり、果ては医療崩壊が起こるという、心不全パンデミックが予想されています。心不全は、重症になれば入院医療が必要となるため、病院が心不全の患者さんを受け止めきれなくなる事態や、莫大な医療費がかかる可能性が懸念されています。
心臓の構造と働き
では、具体的に心臓の機能的なお話をしてゆきたいと思います。まず、心臓はポンプとして働いており、全身に血液を送り出していることは、なんとなくご存じかと思います。このポンプ機能の不調全般が心不全と呼ばれます。「病名」というより、「心臓のポンプ機能の調子が悪いよ」という「病態」と言ってもよいかもしれません。「なんだそんなことか……」といわれてしまいそうですが、気を付けなくてはならないのは、心不全には多くの場合、「心不全を起こす原因」があることです(たまに検査の結果、原因不明という事もあります)。このあたりを解説するには、まず心臓の構造と、その働きを簡単にご理解いただく必要があります。
少し詳しい解説になりますが、さらっとお読みください。人間の体には動脈と静脈があり、その中を血液が流れています。全身から戻ってきた血液は、一度、肺に運ばれ、血液に酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出します。その血液が再度心臓に戻り、続いて大動脈から全身に送り出され、体の隅々に酸素と栄養を届け、また静脈を通り心臓に戻る。これを延々と繰り返しています。
心臓の拍動する回数は1分間に60~80回程度、1日に換算するとおよそ10万回となります。少なすぎれば拍動数が足らずに心不全、多すぎたり、リズムの乱れが強いと、空回りして心不全という事もあります。
心臓の内部の構造ですが、非常に複雑です。簡単に言えば心筋という筋肉の袋になっており、中の血液を拍動(収縮)により押し出して動脈に送り出します。中には4つの部屋(左心房、左心室、右心房、右心室)と、周りから4種類の血管(大動脈、肺動脈、肺静脈、大静脈)が出入りしており、さらに逆流を防止する4種類の弁(大動脈弁、肺動脈弁、僧帽弁、三尖弁)が一拍ごとに開閉しています。
順番的には、血液が体全体から大静脈(上大静脈、下大静脈)をとおり心臓に戻ってきて、まずは心臓の右心房 ⇒ 右心室 ⇒ 肺動脈 ⇒ 肺 ⇒ 肺静脈 ⇒ 左心房 ⇒ 左心室 ⇒ 大動脈 ⇒ 全身へという順番です。(医療従事者でなければ覚える必要はありません。)つまり、かなり複雑な動きをしているのです。
この循環のどこかが滞り、血液を送り出せなくなる状態が心不全となります。
ざっくりと不調の原因を挙げれば、
左心室、右心室の不調: 心筋梗塞、心筋症、不整脈、拡張障害など
弁の不調: 心臓弁膜症(逆流症、狭窄症)、損傷(乳頭筋断裂)など
血管の問題: 高血圧、肺の疾患、動脈硬化、血管狭窄など
心臓の構造の問題: 先天性心疾患、中隔欠損症など
循環する血液(量)の問題: 腎不全、水中毒、低酸素、塩分過多、脱水など
まだまだほかにもありますが、つまり、心不全という一つの疾患(病態)を起こす原因として、心臓だけでなくほかの臓器も影響して、さらに無数ともいえる疾患、病態があるわけです。
そして、検査をしても原因がわからなかったり、もし複数の原因があると、どれが本当の原因か判断に困る場合もあります。この結果、診断の上で「心不全」という病名(病態)が「暫定的」に診療、診断を進めるうえで 「言葉(診断名)として」 非常に便利であり、逆に独り歩きをして本質をわかりにくくしている原因でもあります。
心不全の症状と、過去の急性心不全
心不全という病名がさらに診療上便利なのは、それは何が原因であろうと、心不全という「病態」に概ね変わりはないためです。病状の程度問題(重症、軽症)や、治る治らないという違いはありますが、出現する症状はほぼ似通っており、息切れ、易疲労感(すぐに疲れてしまう)、むくみ、体重増加、動悸などだからです。検査でもレントゲン写真での心拡大や、採血検査でBNPという値が高ければ心不全の疑いが強くなります。まず、心不全という病態を確認(確定)し、そこから原因を探るため精密検査に入ってゆくという一つの関門、通過ゲートのような病名なのです。
もう一つ、余談にはなりますが、心臓の心不全という病名がよく知られている背景として、死亡診断書に記載される死因の一つとしてよく使われていtことがあります。まだ、現代のような検査や医療機器などが整っていない時代や地域で、死亡した原因が判然としない場合に、「急性心不全」という病名が広く使われていた過去があります。現在は、死因が不明の場合の死因を、安易に「心不全」とすることはなくなってきています。不整脈や心筋梗塞などで心不全を起こして命を落とした場合は、診断がついていれば、心不全で亡くなったとしてもその原因である具体的な原因の病名が入ります。しかし実際問題として、明らかに病状として心臓が悪いのに、心臓の機能低下の原因が何もわからない(検査ができない)場合や、原因不明で長期に心臓機能が弱ってしまう場合は、最終的に心不全(慢性心不全の急性増悪)という診断病名になることもあります。
心不全の検査
心不全の際に行われる検査は、心不全の程度(重症度)の評価と、その原因を探る目的で行われます。一般的な診察はもちろんですが、採血、心電図、レントゲンなどがまず行われます。さらに役立つのは心臓超音波検査(心エコー検査)です。15分~30分ほどで、大まかな心臓の機能や構造上の問題がわかるため、心不全の病態には欠かせない検査となります。
さらに踏み込んだ検査として、カテーテル検査などもありますが、一般的に入院が必要になる検査になります。
カテーテル検査は、狭心症や心筋梗塞などが疑われた際に行われる検査で、手や足の血管から心臓まで細い管を入れて、心臓の冠動脈と言われる血管を調べる検査です。
別解説あります ⇒ 狭心症について
心不全の治療と、生活の上で大切なこと
心不全の治療は、ガイドラインでの段階的評価などはありますが、とても細かく難しいので、ここでは省きます。ご興味のある方は「心不全 ガイドライン」で検索してみてください。
簡単にまとめますが、まずは生活習慣の改善から始まり、症状が出始めれば内服薬の治療も必要となります。心臓のポンプ機能の負担を軽くするために、利尿剤(排尿を促し、血液の総量(水分量)を減らす薬)を使うことが多くなります。そのほかにも心不全の薬はいくつもの種類がありますが、その原因や、合併症(高血圧、糖尿病など)により治療の順序や方向性も変化します。詳細はとても長くなってしまうので省かせていただきます。
ただ、心不全の内服薬は非常に重要で、飲み忘れや、自己判断での中止は命にかかわりますので、必ず主治医と相談しながらご判断ください。
心不全の経過を見てゆく際に、患者さんご自身でできる大切なことが、いくつかあります。一つはお食事の塩分を控えることです。日本人は世界の中でも塩分摂取量が高めで、一日平均10gほどの塩分をとっているというデータがあります。心不全の診断を受けている方は、食塩接種の目安は1日6~7gです。食事の際の塩分(塩化ナトリウム)は、すべての料理の「おいしさ」に欠かせませんが、どうしても「脂と塩分」は多めの方がおいしく感じます。外食や販売されている食品は、悲しいかな美味しくなければ売れませんので、傾向として多少なり多めになってしまうのです。ですから、できるだけ自宅での調理や、塩分控えめの料理を購入する必要が出てきます。塩分を控えるために意外に使えるのは味の素のような、うま味調味料です。もちろん多少のナトリウム成分は含みますが(1g あたり食塩相当で 0.3 g )、塩分をそのままとるよりは、併用することで塩分の減量に寄与すると思います。
また、重症の心不全の方は体重測定が意外に大切です。体重は飲水の量や、食事などで日々変化しますが、心不全が悪化する際には数日で2㎏、3㎏の変化を起こします。ただ、洋服などでわかりにくい量の変化でもあります。重症の心不全の方(少しの変化で入院が必要となるような心機能の低下している方)は、こまめな体重測定をお勧めしています。ここに書くほどではありませんが、体重計の種類や継続するコツもありますので、受診の際にお尋ねください。
そして、リハビリとしての筋力維持も大切です。一般的な心不全の経過として、まず心機能の低下により疲れやすくなり、あまり動かなくなり、さらに筋力低下が進んで、次第に動けなくなってしまう悪循環になってしまいます。ご高齢の方はロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイルなども、これに拍車をかけてしまいます。心臓に負担をかけずに筋力維持をするのはなかなか難しいのですが、足腰の筋力維持のため、ゆっくり行うスクワットなどをお勧めしています(こちらも受診の際にお尋ねください)。よく体力維持のウォーキングが勧められていますが、もちろん効果はあるものの、高齢の方や心不全の方は、それだけで心不全の増悪のリスク、また転倒のリスクがあり、使うエネルギーの割には筋肉トレーニングとしての効果はやや低いように思います。筋肉トレーニングについては、特に大腿の筋肉の維持が大切で、寿命に直結するといわれています。(⇒太ももが太いほど死亡率が下がるというデータがあります。「太もも 寿命」で検索してみてください)
以上、長々と書いてしまいましたが、西洋医学的な心不全の解説になります。漢方と心不全というテーマもいつか解説したいのですが、現段階では心不全の治療は西洋医学による治療を優先し、東洋医学はサポート、もしくは組み合わせてハイブリッド治療としてお勧めしております。
何か気になる症状がございましたら、お気軽にお問い合わせください。