- 11月 8, 2024
咳の漢方
今回は咳症状の解説になります。一般的な「咳」症状の医学的な解説は相当長くなってしまうので、とりあえず他のサイトにお任せするとして、当院の特徴でもある「東洋医学的」な解説を書いてゆきたいと思います。
「咳」と言えば、風邪の咳、呼吸機能の咳ですが、実は老化の咳、消化機能の咳、心因性の咳、心不全の咳など、咳はいろいろな原因で出るとされています。症状の程度や頻度、性質も、急に出る咳、床につくと出る咳、顔を真っ赤にしてえずくほどの強い咳、何週間、何か月も続く咳など様々です。
もちろん肺や気管支の疾患に由来する咳が多いため、まずは西洋医学的な検査として聴診やレントゲン、CT、血液検査、場合により専門医による気管支鏡などの検査などを行いますが、加えてアレルギー、喘息などの検査が必要な場合もあります。それらの検査でも原因がはっきりしない場合も多々あり、原因が一つではなく複数の原因が混在することもあります。咳って、結構奥が深い病態なのです。
まずは風邪の際によく使われる咳の漢方についてご紹介してみます。西洋薬と併用することもしばしばで、その味も、お子さんにも飲みやすいものから、かなり苦い、えぐみのあるものまでさまざまです。
「麦門冬湯」
比較的よく使用され、子供でも飲みやすい甘みのある漢方です。基本的にはのどを潤し、粘膜の乾燥を和らげます。粘膜の湿潤が強すぎて、サラサラの痰が少し増えたり、鼻水が気になったりすることがあります。実は胃薬としての力も持っていますが、敏感な方は胃もたれ症状を促進することがあるので、気になる際は減量して服用をお勧めしています。
「麻杏甘石湯」
麻黄という生薬が含まれ、やや強めの咳止めに位置づけされます。喘息、鼻水、のどにもある程度効果が期待できますが、胃粘膜が弱い方、敏感な方は胃に障ることがあり、服用して胃痛などが出る際は減量、中止をするようお話しています。
「五虎湯」
上の「杏甘石湯」に桑白皮という生薬を加えた方剤です。より咳に特化していますが、やはり消化器や胃への負担が少し出ることがあり、注意が必要です。一緒に使用すると去痰薬の効果も持たせることができる「二陳湯」という方剤を加え、「五虎二陳湯」として使用することがあります。
「竹じょ温胆湯」
感染後の長引く咳に使用する漢方薬です。西洋医学的には感染後咳嗽と言われる状態です。どちらかというと虚証(抵抗力の弱っている方)、ご高齢の方によく使用していただいていますが、風邪が長引く方は一時的に体力が弱っていることも多く、外見的には体力がありそうに見えても使用することがあります。ただ、結核やほかの肺の疾患を伴っていることもあるので、そのあたりをよく見極めながら使用します。
「銀翹散」
スイカズラという植物からとれる金銀花と呼ばれる生薬を使用した漢方薬で、独特の風味があります。のどの風邪に効果を発揮します。あまり熱が出ず、のどの痛みに加えて咳が出てきているようなときには、自分自身でも良く服用し、助けられています。
「清肺湯」
痰と咳が強く、特に黄色の痰が多く、肺炎か、もしくはそれに近い病態に使用します。細菌性肺炎に近い状態が多く、 痰と咳が強く、特に黄色の痰が多く、肺炎か、もしくはそれに近い病態に使用します。細菌性肺炎に近い状態が多く、基本的に何らかの抗生剤の内服も併用します。
「柴陥湯」
咳が強く、炎症も強く、痰が切れにくく、胸が痛むような状態に使います。苦く、えぐみというか独特な風味のする漢方です。
「麻黄附子細辛湯」
風邪の際に体力のやや弱っている場合や、冷え性の方、寒気が続き、のどの痛みと咳などがあるときに使います。冷え性のアレルギーや、寒冷刺激による咳に効果がある場合もあります。基本的に体を温める漢方ですが、動悸などが出る場合もありその場合は減量して服用いただきます。「桂枝湯」という漢方と合わせて、「桂姜棗草黄辛附湯」として使用することもあります。
以上は、主に感冒、感染症に伴う咳の漢方について解説しましたが、感冒、感染症でなくても上記の漢方を使用することもあります。また、冬場など大気の乾燥の強い時期には、気管やのどの粘膜も荒れて抵抗力が弱くなりがちです。タオルを湿らせて干したり、加湿器も効果的ですので、お試しください。
また、以下に、感冒症状以外の原因でよく使用される漢方を挙げてみたいと思います。
「神秘湯」
ミステリアスな名前の方剤ですが、魔法薬ではありません。咳の薬として感冒に使用されることもありますが、喘息症状や、気分の落ち込みを伴う場合に使用される方剤です。麻黄と柴胡を含む方剤で、やや実証(胃腸などが強い方)向きの漢方です。
「半夏厚朴湯」
のどの違和感や、咳払いの多い方、痰が気になって咳が多い方によく使用されます。
「滋陰至宝湯」
虚弱体質で、咳や痰が長期にわたり出ている方、全身倦怠感や、寝汗をかく方、呼吸器疾患が長引いた方に使用されます。
「滋陰降火湯」
やはり虚弱体質の傾向の方で、ほてりや夜間の咳の出る方。痰は少ないが切れにくく、皮膚はやや浅黒く乾燥気味の方。咳が長引いて、のどや気管の粘膜が乾燥するタイプの方に使用されます。
「柴朴湯」
咳症状に加え、喘息症状や、のどのつかえ、異物感、動悸、めまい、吐き気など多彩な症状があり、精神的に不安症状なども見られるときに使用されます。上記の「半夏厚朴湯」と「小柴胡湯」という風邪に使われる方剤を合わせた薬になります。
以上、咳がメインとなる症状に対して、よく使用される方剤を挙げてみました。咳症状の経過と周辺症状(痰、喘鳴、鼻炎など)や、体力などを考慮して処方を決めてゆきます。合併症(心不全、逆流性食道炎、閉塞性肺疾患、疲弊状態など)も咳に関係しますので、注意が必要です。
なにか心当たりのある症状などございましたら、お気軽にご相談ください。