• 10月 22, 2024

同病異治、異病同治 ~オーダーメイドの治療~

難しい漢字をタイトルにしてしまいましたが、同じ病名の患者さんでも、全く違う薬が処方されることがよくあり、また、全く違う病気に対して、同じ薬を処方することも少なくないという、漢方の教えの一つです。

漢方は一つの薬が一つの病気(病名)に対する治療という考え方はしません。現在お困りの症状はもちろんですが、その人の体質や病気の経過、精神的な状態も加味して、処方を変えてゆくのが当たり前なのです。

例えば、「五苓散」という薬、現代医学の病名では慢性硬膜下血腫に使われたり、低気圧頭痛、小児の嘔吐症、夏バテや心不全の浮腫に使われることもあります。この薬のこれらの効果は「利水」と言われております。体の中で、水分の移動を調整する薬なのですが、利水と言っても実にいろいろな効果があるのです。かといって、体に水分が溜まる「心不全」や「腎不全」に五苓散を使えばよいかというと、そんなこともないのです。簡単なようで、やみくもに使ってもなかなか効果が出にくい薬です。

狐につままれたような話なのですが、ここが漢方のミソと言ってもよいところで、処方選択時に優先すべきは、体質と体の状態で、ここをしっかりと捉える必要があります。

例外的ですが、逆に病名で漢方の処方が決まってしまうこともあります。どちらかというとレアケースです。例えばたった二つの生薬から作られる「芍薬甘草湯」は足がつってしまうような「こむら返り」に使われますが、これはもう、どんな体質の人でも効果がある特効薬と言ってもいいと思います。もう少し書き加えると、こむら返りは病名というよりも状態を表す側面があり、急性期はこの漢方一択と言ってもよいのです。ただ、毎日のように延々と服用していると、効果が出にくくなり、副作用が出ることもあります。症状が改善しない場合は、ほかの症状をお聞きしながら、体質をふまえて、この「芍薬甘草湯」を中に含む別の処方に変えてゆくこともよくあります。

この体質や病状に合わせ漢方の処方を選ぶ、ということは、処方する医師のほうにも考え方の違いがあらわれます。

ある先生は、まず治せるところを先に治す、別の先生は病気の根源をとらえて、ゆっくりでも基から治す、また別の先生は自分の得意な部分から治療に当たるなど、処方する医師にも個性とセオリーがあります。富士山に登るにもいくつかの登山ルートがあるのと同じで、最終的には登頂できたとしても、これが正しいという道はありません。また、常に天候の良い山道ばかりではなく、霧が出たり雨がふったり、山道が崩れていたりなど、得てして予定通りにいかないものです。人間の体もまた同じです。言い訳がましくなってしまいますが、少なくとも漢方には完ぺきな治療はありません。西洋医学のように病名が決まってしまえば、あとはガイドライン通りに治療をすればいいという治療もありますが、患者さんに逐一質問をしながら、症状と経過に合わせて治療を続ける東洋医学的な医療もあります。どちらがいいということではなく、ケースバイケース、症状に合わせた「いいとこどり」でよいと思います。

また、漢方はある程度症状が改善し、経過が落ち着いていると、「廃薬」と言って処方を減量、中止することも多くあります(もちろん中止するリスクを考え続行することもあります)。いったん症状が改善し、生活習慣なども改善することで、薬をやめてもそのまま維持できることも多いのです。ただ、薬をやめるとしばらくして症状が再び出現することもあり、その時は薬をもう一度再開して服用いただくこともあります。この点は西洋医学ともまた違った側面です。よく言えばフレキシブル、悪く言えばいい加減とも取れますが、基本は「患者さんの訴え」であり、治療の真ん中にいるのは患者さんその人です。

患者さんにとっても、医師にとってもなかなか手間と時間がかかる治療ですが、西洋医学でなかなか改善せず、あきらめかけていた症状も、時に改善がみられることがあります。

まるで体形や動きに合わせた洋服をあつらえるように、その人に合わせたオーダーメイドの治療が、よい意味でも悪い意味でも、東洋医学の特徴になります。

もし、何か気になる体調の変化などがございましたら、お気軽にご相談ください。

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