• 10月 3, 2024
  • 10月 11, 2024

風邪の漢方 その1 ~時間的な経過~

「風邪の引き始めに葛根湯」というフレーズを耳にしたことのある方も多いと思います。

漢方で風邪の治療をする際に、処方を決定する指標の一つとして、風邪の時間的な経過があります。風邪の引き始め(初期)、中期、慢性期という東洋医学的な感冒症状の経過と、その考え方についてご紹介いたします。

今回はざっくりな経過の解説になりますが、より詳しい「六病位」という考え方もあります。しかし、かなり複雑になってしまうので、まずは簡単にお話しできればと思います。

風邪を引いたときの大まかな経過ですが、まずは「ぞくっ」と寒気が出て、その後に発熱、関節痛(節々の痛み)、発汗、のどの痛みがでます。徐々に鼻水、鼻づまり、咳や痰などが出現し、最後には腹部症状(食欲低下、下痢、腹痛など)となる場合もあります。その後、咳が残ったり、倦怠感や食欲不振が続くといった症状があることもあり、しばらくすると、やっと平常の状態に戻ってゆくというのが一般的な経過です。もちろん途中で治ってしまうことや、途中を一足飛びにして、発熱→消化器症状となることもあります。専門的に、高齢者などに多い「直中の少陰」と表現することもあります。

漢方を選択する場合、この病期の経過によって処方薬を変えてゆきます。


風邪の初期

最初の段階は風邪の初期、ぞくっと寒気がして発熱もしくは発汗するまでの期間です。この時期によく使う代表的な漢方薬には「麻黄湯」、「葛根湯」がありますが、体質、症状によって「桂枝湯」、「麻黄附子細辛湯」、「越婢加朮湯」などに変更や追加をする場合もあります。(例えば、麻黄湯 + 越婢加朮湯 → 大青龍湯として、組み合わせにより「違う漢方薬」として使用することもあります。)

この状態は、風邪の菌、ウイルスに感染して、体が非常事態宣言を出している状態です。寒気がして、首筋の痛み、頭痛、震えなどが出ることもあります。漢方薬はこの時期には体を温め、発汗させる治療をします。早期に体温を上げて免疫力を高め、汗をかくことで体が楽になり(表面温度が下がり)、代謝を上げると考えられています。ここで適切な処方を選択、服用できると、その後の病状の悪化をある程度食い止められるといわれています。

ただ、すでに多量の汗が出ている場合は、さらに汗をかかせてしまうと脱水につながる場合もあり注意が必要です。また解熱鎮痛剤で無理に熱を下げてしまうと、しっかりと免疫が働かずに治癒が遅くなってしまうことがあります。体は温めつつ、汗で熱を下げるというのが体にとって効果的なようです。


風邪の中期

次の段階は風邪の中期、咳や痰、消化器症状が出現してくる段階です。発熱はもちろんですが、往来寒熱と言われる熱が出たり下がったりを繰り返す状態も見られます。

その他には、胸脇苦満と呼ばれる肋骨弓下の張った痛みが出る症状、口の中の苦い感じや、口の粘膜が渇く、はき気、食欲不振などの消化器症状が出てきます。この時期を漢方用語で少陽病(期)と呼ぶこともあります。

この段階では、柴胡と黄ゴンと呼ばれる生薬を含む漢方薬を使用します。小柴胡湯という漢方薬が代表的な薬です。病原をたたいて退治するというより体内で中和するイメージの治療になります。これ以上、体内の被害を増やさないために、余分な炎症を止めてゆきます。また鼻水や痰が黄色、緑色になり、塊になって出てくることもあり、症状が増悪している際には漢方にこだわらず抗生剤を使用することがあります。


風邪の慢性期

そして感冒の後半、慢性期、回復過程になります。これまでの経過により様々な症状が出ます。何事もなく順調に回復する場合もありますが、体力の低下や、持続する倦怠感、長引く咳が残ってしまったり、むしろこじらせて肺炎になる可能性もあります。

各患者さんの病状と体力に合わせて、治療を行ってゆきます。病み上がりという状態ですので、今後の順調な回復のため、消化機能を保ち(消化の良いものを食べて)、無理せず休養するように心掛けてください。ご高齢の方は補中益気湯、食欲があれば十全大補湯を1~2週間服用すると、病み上がりからしっかり回復する印象です。

以上、長くなりましたが、風邪の大まかな時間経過について解説してみました。風邪症状が出た時には多少でも参考になればうれしい限りです。

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